この記事では40代・介護職未経験・無資格の方にもお勧めな介護の職場の一つ、老人保健施設(老健)に5年間勤めているSさん(49歳:男性)に語っていただいた体験談をベースに、介護職未経験の方にもわかりやすい視点で、「40代で介護老人保健施設で働くということ」について解説しています。
介護福祉士の受験対策教室で知り合いとなったSさんは、44歳・介護職未経験・無資格で介護業界デビューを果たし、現在もはじめての介護の現場である老健でフロアリーダーとして働き続けています。
それでは、よろしくお願いします。
はじめての介護の現場「介護老人保健施設(老健)」への転職
はじめまして。
Sと申します。
私は44歳で電機メーカーの営業から、介護職専門の転職支援サービスを利用し、はじめての介護の仕事である老健へと転職をしました。
転職を決断した理由は、労働環境があまりにも過酷(サービス残業140時間/月以上)であったこと、不景気の煽りで会社自体の業績が悪化の一途をたどり、非常に不安定であったことからです。
老健での仕事は確かにいそがしいです。
これは、介護の仕事全般にいえることです。
ただ、老健での仕事は特養(特別養護老人ホーム)ほど厳しくはないと思います。
その理由の一つは利用者の方の「入所条件」にあります。
特養の入所条件:要介護3~5(2015年から)の65歳以上の高齢者というのが基本条件。
老健の入所条件:要介護1~5の65歳以上の高齢者というのが基本条件。
だからです。
つまり、特養の利用者(高齢者)は「介護度が重い方が中心」である=「介護量が多い」=「介護職としての仕事量が多い」となるのです。
施設の運営方針や人員配置によって異なってくるため、絶対そうだとは言い切れませんが、このような理由から特養のほうが仕事は大変になる傾向があるといえます。
40代、介護職未経験、無資格で施設介護の仕事を転職先に考えている方には、特別養護老人ホーム(特養)よりも介護老人保健施設(老健)がオススメです。
また、ひとつ確実に言えることは、日々ノルマの重責に押し潰されそうだった電機メーカーで営業をしていたころと比べると、心身へのストレスはずいぶんと軽くなったということです。
介護の仕事は仕事が大変な割には給料が安いというのが、世間一般の通説になっています。
たしかに、営業職の時の給料に比べれば額は下がります。
ちなみに私の現在の月給は約26万円(諸手当込み)です。
満足な額とはいえませんが、精神的に不調(不眠・抑うつ)をきたし、メンタルクリニックに通わなけらばならないほどの激務であった電機メーカーでの営業時代と比べれば決して安すぎる額ではありません。
夫婦共働きであれば十分に生活を維持していくことのできる額であるといえます。
高待遇で働きやすい介護の職場探しには、介護職専門の転職支援サイト「かいご畑」がオススメです。
「で、かいご畑ってなに?」
と思われる方は【40代・未経験・無資格の方がかいご畑を知らないと損をする5つの理由】をお読みください。
「利用して大丈夫なの?」という疑問と不安が解消されます。
介護老人保健施設での勤務体系
勤務はシフト制の不定休(4週8休)です。
・「早番」7:00~15:30
・「日勤」8:45~17:15
・「遅番」11:30~20:00
・「夜勤」16:30~9:45
の4交替制です。
施設によっては、早番や遅番が2パターンある、5~6交代制のところもあります。
基本は「早番」⇒「日勤」⇒「遅番」⇒「夜勤」⇒「(夜勤)明け休み」⇒「公休」という勤務の流れになります。
夜勤は施設によっては22:00~6:00の短時間制のところもありますが、私としては17:00~10:00のような長時間勤務のほうがよいと思っています。
理由は長時間夜勤の場合は、明け休み・翌日公休となるからです。
短時間制の夜勤は勤務時間は短くても、夜勤明けの日が公休扱いになってしまうため、しっかりと体を休めることができないと思います。
10~20代の方であるならば、短時間夜勤という選択肢もありかもしれませんが、40代になると夜勤明けは明け休み・公休という連続した休みがとれないと疲れが抜けにくいと思います。
介護老人保健施設での仕事内容
仕事内容は基本となる「排泄介助」「入浴介助」「食事介助」の三大介護の他に、認知症介護、利用者の方の入・退所時の書類(ケアプランなど)作成、フロア(利用者の方々の居室や食堂があるスペース)での機能訓練、リハビリ室への誘導がメインの業務です。
それぞれの具体的な仕事内容を解説します。
老健での「排泄介助」「入浴介助」「食事介助」の三大介護
排泄介助について
老健は利用者の方の介護度の幅が広い(要介護1~5)ため、排泄介助の方法も様々です。
排泄介助の代表といえるのが「オムツ交換」です。
オムツ交換とは汚れたオムツを外し、陰部を温かい清拭タオルやぬるま湯で洗浄しきれいなオムツに付け替えることです。
尿失禁や固めの便失禁の処理は比較的簡単なのですが、ゆるい便の処理は利用者の方への負担を最小限にしながら、衣類やベッド汚さないように交換するのでなかなか大変です。
私の働いていたフロア(入居者数:約50名)では、昼間オムツの利用者の方は2~3割、夜間オムツの方は4~5割です。
トイレでの排泄が困難な方はベッド上でのオムツ交換をおこないます。
少しでも立位が保て(立っていることができ)て、尿意便意(排尿排便の感覚)が少しでもある方は、機能訓練という意味からもトイレでおむつ交換をおこないます。
その際には立ち上がっていただいてからオムツを外し、便座に座っていただき、自力での排泄の有無を確認します。
その後ふたたびオムツを着用していただきます。
尿意便意がややあいまいでも、立位が安定して保てる方はトイレ誘導を行い、汚れたリハビリパンツ(紙パンツ)やパッド(尿漏れパッド)の交換を行います。
トイレ動作が自立されている方に対しては、声掛け(「そろそろおトイレに行かなくても大丈夫ですか?」など)をおこない、リハビリパンツや布製の普通のパンツの汚れがなかったかの確認をおこないます。
入浴介助について
利用者の方が入浴できるのは、基本は一週間に2回(2日)です。
2回以上入浴してはいけないわけではないのですが、介護職の人員面から回数を増やすのはなかなか難しいのが現状です。
入浴は「特浴(機械浴)」と「一般浴」に大きく分けられます。
特浴(機械浴)は施設によって「ストレッチャー浴」「リフト浴」「チェアー浴」など形態や呼び方が異なります。
私の勤めている老健には「ストレッチャー式」と「チェアー式」の二種類の機械浴があります。
この二つの大まかな違いを簡単に説明すると、
・ストレッチャー式:寝た状態で体を洗いそのまま浴槽につかれる。
・チェアー式:座った状態で体を洗いそのまま浴槽につかれる。
ということです。
一般浴も施設によって形が異なります。
温泉のような大浴場もあれば、家にある浴槽のような大きさのものもあります。
入浴介助は更衣や洗身の介助だけではなく、利用者の方の抱えている持病や褥瘡(じょくそう=床ずれ)などのケガへの配慮、皮膚状態の観察も必要です。
また、浴室内は滑りやすく転倒の危険性が非常に高いため、歩行介助をいつもよりも慎重におこなう必要があります。
食事介助について
食事形態は利用者の方の咀嚼(そしゃく:食べ物をかみ砕く)と嚥下(えんげ:食べ物や水分を飲み込む)状態によって異なります。
常食(普通の食事形態)の方は6~7割程度で、きざみ食(食べやすく刻んだ物)、ミキサー食(ミキサーにかけて液状にした物)などの介護食の方もいらっしゃいます。
介護度が高い方には、自力摂取(一人では食事たべる)をできない利用者の方もいらっしゃるため、そのような方々は同じテーブルについていただき食事介助をおこないます。
食事介助(食べ物をスプーンなどで口元に運ぶ・水分を飲んできただくなど)は、職員一人で2~3人の高齢者の方を担当します。
嚥下機能が落ちてしまっている利用者の方も多いので、誤嚥(ごえん=食べ物などが食道ではなく気道に入ってしまうこと)のリスクも高いです。
誤嚥によって誤嚥性肺炎(空気以外のものが肺の中に入ってしまい炎症を起こしてしまう肺炎)を誘発してしまわないよう、食事介助をしなくてはなりません。
認知症の利用者の方の中には他の利用者の方の物を食べてしまったり、ごはんで遊んでしまったりする方もいらっしゃるので、トラブルが
起きないよう食事介助をしながらフロア全体に気を配る必要があります。
また、入れ歯をされている認知症の方は、入れ歯を外してなくしてしまうことが多いです。
そして、これがなかなか見つからないのです。
そのため、食後の入れ歯洗浄後はポリデントをいれたコップの中に保管し、職員が管理をするようにしています。
介護老人保健施設での認知症介護
老健の仕事は認知症の方々に対応することも重要です。
特養ほど重度の方は多くはありませんが、介護の必要性が高い認知症の方はいらっしゃいます。
代表的な認知症の症状を解説します。
徘徊(落ち着かずに歩き回る状態)
起きている間はフロア内を歩き回り、落ち着いて座っていることが少ないです。
そのため、離設(施設から外に出て行ってしまうこと)をしないよう所在確認・安否確認に注意が必要です。
また、他の利用者の方の居室に入り込みベッドで寝てしまったり、布団を持ち出してしまったりして、他の利用者の方からクレームが来ることもあります。
異食(食べ物ではないものを食べてしまうこと)
異食をされてしまう認知症の方は少ないですが、リスクはあるため注意が必要です。
フロアには食べてしまいそうなもの、口に入りそうなものは置かないよう、特に薬の空きシートや洗剤類の管理は徹底しています。
昼夜逆転(昼間寝てしまい夜間に活動=寝ない状態)
入居されている利用者の方の2~3割の方が昼夜逆転傾向です。
昼夜逆転で問題になるのが、活動量の低下・介護量の増大です。
昼間寝てしまうため、リハビリやレクリエーションなどの活動に参加することができません。
そのことによって、身体機能の低下・認知症の進行などにつながってしまうのです。
また、食事中も覚醒(目が覚めている状態)の度合いが低いため、食事介助が大変(口をあけない。そしゃくしない。飲み込まない)になってしまいます。
眠気が強いため入浴に対する拒否が強くなってしまいます。
だからといって、入浴を何週間もしないというわけにはいかないため、あの手この手で目を覚ましていただき、入浴していただくのです。
その他にも、物とられ妄想(実際は盗まれていないのに、他人に大事な物を盗まれたと信じ込んでいる症状)や帰宅願望(主に夕暮れ時に「家に帰りたい」と強く訴え続ける症状)なども見られます。
認知症の方と、比較的しっかりした利用者の方とのトラブルが起きやすいのも老健の特徴です。
具体例としては、
「私の部屋に勝手に入ってくる」
「食事中に入れ歯を外すのは見てて不快」
「夜中に起きだして動き回るから眠れない」
などです。
双方の利用者の方により生活しやすい環境を提供するために、日々他職種(リハビリ職員・栄養士・相談員など)の方々に相談をしたり、ミーティングで話しあいをすることによって問題解決に努めています。
入・退所時の書類(ケアプランなど)作成
老健は特養(特別養護老人ホーム)の空き待ち=第二の特養化という部分も事実としてあります。
ですが、やはり基本は「在宅復帰」が目標としてあるため、毎日のように利用者の方の入退所があります。
入退所があるということは、そのつど手続きに必要な書類の用意とご家族に対する説明が必要であるということです。
金銭的な契約の部分は事務所で済まされても、フロア(利用者の方々の居住スペース)での過ごし方や、介護についての細かい説明などは、入退所の担当となった介護職員の仕事となります。
さらに、新しく入所された利用者の方に対するケアプランの作成も必ず行わなくてはなりません。
ケアプランとは「利用者の方やご家族に、これからどのような生活を送りたいかお話をうかがい、その目標に向けて施設でのサービスが適切に利用できるよう種類や頻度を決めた計画書」です。
利用者の方の在宅復帰に向けた、心身機能の維持・向上のための計画書なのです。
ケアプランは介護職・看護師・リハビリ職員・相談員などとのサービス担当者会議(判定会議)で各部署からの意見を交えて作成されます。
このサービス担当者会議に出席するにあたって、介護職の視点からの意見が必要となるのです。
この意見を考えることは面倒なことではありますが、将来ケアマネージャーの資格取得をみすえた場合、自身の勉強になります。
フロア(利用者の方々の居室や食堂があるスペース)での機能訓練
老健(介護老人保健施設)は「在宅復帰」を目標とした施設です。
なので、機能訓練室での2回/週のリハビリテーション以外に、フロアでの毎日の機能訓練も実施します。
在宅復帰(心身機能の維持・向上)に向けて、利用者の方に必要な機能訓練は何かをリハビリ専門職(理学療法士や作業療法士)の方と共に考え、アドバイスをもらいながら「フロア訓練表」を作成します。
フロア訓練の具体的な内容は、
・廊下の手すりをもって立ち上がる訓練
・歩行器を使用して廊下を往復する歩行訓練
・食事の時にスプーンをもっていただいて自力摂取を促す訓練
などです。
作成したフロア訓練表を基に機能訓練を毎日実施し、その実施の程度・状態を記録として残します。
そして退所前にはその訓練は利用者の方にとってどのような効果があったのか、あるいはなかったのかを評価します。
最後にSさんからのアドバイス
施設外部の勉強会や研修で、他の老健や特養(特別養護老人ホーム)や有料(有料老人ホーム)で働く職員の方々と交流を持ち、それぞれ現場について話をきく機会があります。
話をきいて毎回思うことは、「私の働いている老健はめぐまれた環境である」ということと、「介護の現場によって待遇・働きやすさはが驚くほど違う」ということです。
世間一般的には介護の現場で働くということは、ネガティブなイメージばかりが先行しています。
これは、私としては非常に残念なことだと思っています。
ブラックな介護施設があることは事実ですが、好条件で働きやすい介護の現場も確実に存在するのです。
本当にブラックで過酷な介護現場しかなかったならば、「日本の介護」は成り立ちません。
介護業界についてまったく無知であった私が、転職で失敗しなかった理由は、ハローワークを利用せず、介護職専門の転職支援サイトを利用し、経験豊富なアドバイザーの方に親身になって相談に乗っていただいたからだと思っています。
介護の現場では40代のマンパワーを必要としています。
介護業界への転職を考えている方、幅広く介護の経験を積むことができる老健(介護老人保健施設)への転職をオススメします。
まとめ
老健に入所される利用者の方は、基本的に65歳以上で「介護度1~5」と幅広く、在宅復帰を目標とした機能訓練(リハビリテーション)に重点が置かれているため、こなさなくてはならない仕事が多いです。
ですが、特養(特別養護老人ホーム)ほど仕事はきつくなく、介護の仕事を基礎から幅広く学べるため、40代・介護職未経験・無資格の方にはオススメの現場であるといえます。
>>介護老人保健施設と特別養護老人ホームの違いを、わかりやすく知りたい方はこちらの記事をお読みください⇒「【介護職未経験者用】特別養護老人ホームと老人保健施設の4つの違い」
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